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東京地方裁判所 平成7年(ワ)15271号 判決 1996年5月28日

原告

藤田義郎

ほか二名

被告

松浦一樹

主文

一  被告は原告藤田義郎に対し金三〇七万八一六二円及びこれに対する平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告吉村澄子及び同吉村美知子に対し、それぞれ金五〇万六一七二円及びそれぞれの金員に対する平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は四分して、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分につき、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は原告藤田義郎に対し金一二〇七万〇九五二円及びこれに対する平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告吉村澄子及び同吉村美知子に対し、それぞれ金一三七万二七八四円及びそれぞれの金員に対する平成六年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告

請求棄却

第二事案の概要

本件は、交通事故により死亡した亡藤田民子(以下「亡民子」という。)の遺族である原告らが、被告に対し、民法七〇九条に基づいて、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成六年一二月一三日午前五時三五分ころ

(二) 場所 東京都東大和市中央二丁目八二七番地先

(三) 加害者 被告

(四) 加害車両 普通乗用自動車(多摩三三り六二一五)

(五) 被害者 亡民子(自転車)

(六) 事故態様 被告は、加害車両を運転し、新青梅街道を田無方面から青梅方面に向かつて進行中、事故現場手前約三八メートルで対面信号が青色であることを軽信し、折から所沢方面から立川方面に赤色点滅信号に従つて交差点に進入した亡民子を約一三・八メートルに近付いて初めて認めて急制動をしたが間に合わず、自車の左前部で被害者を自転車とともにはね、自転車を大破させるとともに、左前面ガラスに被害者の頭部を衝突させて、傷害を負わせ、即時同所において死亡させた。

2  責任原因

被告は、少なくとも前方不注視による過失(制限速度違反があるか否かについては争いがある。)に基づき本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告らが受けた損害を賠償する義務がある。

3  損害の填補 合計一八二七万五六五〇円

二  争点

1  損害額に関する原告の主張

(一) 亡民子に発生した損害 四二八〇万五九八六円

(1) 逸失利益 二二七九万五九八六円

(ア) 家事従事者としての逸失利益 一四八二万五八三八円

基礎収入として賃金センサス産業計企業規模計学歴計女子労働者の全年齢平均の賃金額、逸失期間として平均余命(一六・二年)の二分の一である八・一年、生活費控除率を三〇パーセントとして計算する。

(イ) 老齢厚生年金 七九七万一一四八円

年金額九六万六〇〇円、平均余命一六・二年として計算する。

(2) 慰藉料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

(3) 物損 一万〇〇〇〇円

(二) 原告藤田義郎固有の損害 六二三万二八一〇円

(1) 治療費 二万六五六〇円

(2) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(3) 固有慰籍料 五〇〇万〇〇〇〇円

(4) 文書等諸雑費 六二五〇円

(三) 総損害 四九〇三万八七九六円

(四) 過失相殺後の金額(三五%) 三一八七万五二一七円

(1) 原告藤田義郎 二四八二万一七四三円

(2) その他の原告ら 各三四六万一七三六円

(五) 原告らの損害額

(1) 原告藤田義郎 一〇九七万三五九三円

27,693,890×0.75+4,051,326-13,848,150

(2) その他の原告ら 各一二四万七九八六円

27,693,890×0.125-2,213,750

(六) 弁護士費用

(1) 原告藤田義郎 一〇九万七三五九円

(2) その他の原告ら 各一二万四七九八円

(七) 差引損害額

(1) 原告藤田義郎 一二〇七万〇九五二円

(2) その他の原告ら 各一三七万二七八四円

2  過失相殺について

(一) 原告らの主張

被害者側の過失として三五パーセントの過失相殺をすべきである。

(二) 被告の主張

被害者側の過失として八五パーセントの過失相殺をすべきである。

第三証拠

証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第四争点に対する判断

一  事故態様及び過失相殺について

1  前記争いのない事実及び甲第一号証、第二号証の一ないし八並びに原告藤田義郎の供述によれば次の事実を認めることができる。

(1) 被告は、平成六年一二月一三日午前五時三五分ころ、加害車両を運転し、新青梅街道を田無方面から青梅方面に、時速六〇ないし七〇キロメートルで進行し、一方、亡民子は、自転車で、所沢方面から立川方面に、本件交差点に進入した。

(2) 本件交差点には、夜間(午後一〇時から午前六時まで)押ボタン式となる歩行者専用の信号機が設置され、本件事故当時は、新青梅街道側は常に青信号であり、所沢方面からの対面信号は常に赤色点滅信号とされていた。

(3) 被告は、事故現場手前約三八メートルで対面信号が青色であることを軽信し、前方を注視しなかつたため、所沢方面から立川方面に本件交差点に進入した亡民子に気付くのが遅れ、ようやく約一三・八メートルに近付いて初めて亡民子を認めて、急制動したが間に合わず、亡民子が交差点をおおむね通過し終える一・九メートル手前の地点で、自車の左前部で亡民子を自転車とともにはねた。

2  右事実によれば、本件事故は、被告が、制限速度を超える速度で、加害車両を運転進行したこと及び亡民子の動静に注意を欠いたことによつて惹き起こされたものということができ、しかも、本件事故は、亡民子が交差点を通過し終わる直前の地点で起きていることなどを考慮すると、被告の過失の程度は大きいものということができる。他方、本件信号機は、歩行者専用のものであり、自転車により進行する場合には、規制が及ばないものということができるが、亡民子には、左方面の確認を十分にしなかつた落度のあることも明らかであり、この点を考慮すると、本件事故で原告らの被つた損害から五〇パーセントを過失相殺により減ずるのが相当である。

二  損害額について

(一)  亡民子に発生した損害 四二七一万八七五四円

(1) 逸失利益 二一七〇万八七五四円

(ア) 家事従事者としての逸失利益 一四六七万八四四四円

亡民子は、本件事故時七〇歳の主婦であり、本件事故に遭遇しなければ、その後八年間にわたり就労が可能であり、その間賃金センサス平成六年第一巻第一表・産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計・全年齢平均の年収額三二四万四四〇〇円を得ることができ、また、生前の生活状況からみて生活費控除額を三〇パーセントと解するのが相当である。そこで、亡民子の本件事故当時における逸失利益の原価は、ライプニツツ方式により中間利息を控除すると、次のとおりとなる。

3,244,400×6.4632×0.7=14,678,444

(イ) 老齢厚生年金 七〇三万〇三一〇円

甲第三号証の一六によれば、亡民子は、老齢厚生年金を年額九六万七六〇〇円受給していたこと、平成六年生命簡易表によれば、七〇歳の平均余命は一六・七八年であることが認められる。右の点を考慮にいれると、亡民子が本件事故に遭遇しなければ、その後、一五年間程度は、右年金を受給できたものと認めることができ、その生前の生活状況から生活費控除額を三〇パーセントと解するのが相当であるから、亡民子の本件事故当時における年金受給権喪失による逸失利益の原価は、ライプニツツ方式により中間利息を控除すると、次のとおりとなる。

967,600×10.3796×0.7=7,030,310

(2) 慰藉料 二一〇〇万〇〇〇〇円

生前の生活状況、家族関係、年齢等一切の事情を考慮すると、亡民子が本件事故により死亡したことによつて被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、二一〇〇万円と認めるのが相当である(なお、右金額は、原告藤田義郎の精神的苦痛の程度も含めて評価したものである。)。

(3) 物損 一万〇〇〇〇円

自転車が毀れたことにより、一万円の損害が発生したものと認めることができる。

(二)  原告藤田義郎の固有損害 一二一万三五六〇円

甲第三号証の一二及び原告藤田義郎本人尋問の結果によれば、原告藤田義郎は治療費として一万三五六〇円を支出したことが認められるが、その他の支出については、相当因果関係に立つ損害と認めることはできない。また、前記供述によれば、原告藤田義郎が亡民子の葬儀を執行したことが認められ、相当因果関係に立つ葬儀費用にかかる損害は、一二〇万円と認められる。その他、原告藤田義郎の固有損害については、認めることができない。

(三)  過失相殺及び既払額の填補

前記のとおり過失相殺として五〇パーセントを控除し、既払額(争いがない。)を控除すると次のとおりとなる。

(1) 亡民子に発生した損害

42,718,754×0.5-17,710,000=3,649,377

(2) 原告藤田義郎に生じた損害

1,213,560×0.5-565,650=41,130

(四)  相続

原告藤田義郎は、配偶者として四分の三、その余の原告らは、兄弟姉妹として各八分の一であり、各原告の損害額は次のとおりである。

(1) 原告藤田の損害額 二七七万八一六二円

3,649,377×0.75+41,130=2,778,162

(2) その他の原告らの損害額 各四五万六一七二円

3,649,377×0.125=456,172

(五)  弁護士費用

(1) 原告藤田義郎 三〇万〇〇〇〇円

(2) その他の原告ら 各五万〇〇〇〇円

第五結論

以上のとおり、本件各請求は、<1>原告藤田義郎について、金三〇七円八一六二円及びこれに対する本件事故の日である平成六年一二月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、<2>原告吉村澄子及び同吉村美知子について、それぞれ金五〇万六一七二円及びそれぞれの金員に対する右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度で理由があり、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

(裁判官 飯村敏明)

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